次世代がん治療に向けた
パラダイムシフト

がん治療法（外部照射）

がんに対する主な治療には、外科（局所）、化学（全身）、放射線療法（局所）があり、症状、性質、進行度などに応じてこの中の１つか、又は、３つを効果的に組み合わせた集学的治療が施されます。 しかし、今、医療現場では切らずに治したいという希望が増えている事と、未だに適当な治療法が無い難治性がんにどう対処するかが最大の課題になっています。

期待が膨らむ放射線がん治療

こうした医療現場のニーズに対して、今、放射線がん治療の立ち位置と進化技術が注目されています。放射線治療の基本形である従来放射線（電磁波＝光子線）、深部にあるがんへの集中照射、副作用の軽減と短期治療を目指す粒子線（陽子線、重粒子線）、そして、未だに適当な治療法が無い難治性がんを担う加速器型BNCT（ホウ素中性子捕捉療法）の誕生によってほぼ全ての症状に対処する事が可能になりました。

ＢＮＣＴの誕生はがん治療のビッグバンであると同時に医療費の削減、医療の効率化というベクトルで見るとまさに医療のパラダイムシフトと言えます。

放射線がん治療の優位性

1.切らずに治すことが可能である事（痛みを伴わない＝低侵襲、臓器温存可）
2.難治性がん＝細胞浸潤、多発病変、再発、手術不適応症例等への適応が可能である事
3.ほぼ全てのがんを対象とし、且つ、症状に応じて効果的な線種の使い分けが出来る事
4.年齢や基礎疾患などに起因する体力弱者や手術不適応症例への対応が可能である事
5.副作用を低減、術後の生活の質（ＱＯＬ）を維持出来る事
6.通院治療が可能である事

※再発がんについて

再発がん（特に転移再発）は見つかった時点で根治することが難しくなり、治療の選択肢も制限され、延命や緩和ケアー等が主な対処法になります。現在は術後補助療法（化学、ホルモン療法等）が施されていますが、それぞれに長短があり、今なお、研究途上の段階です。

期待される放射線がん治療と装置

放射線を使ったがん治療は、がん治療の３大療法と同じく、種類、症状、進行度などによって線種（装置）を使い分けて治療するのが一般的です。

従来放射線治療・装置（電磁波・光子線）＝高精度照射の普及

治療機器の高度化（ＣＰを用いた治療計画、ＣＴ上で腫瘍を固定しつつ照射野を確定させる）が進み、照射野の縮小が可能となり有害事象が減少。また、大線量の照射が可能となり局所制御率が向上した結果、リニアックにおけるピンポイント照射やＩＭＲＴ（強度変調放射線治療）などが出現しています。手術と同等の治癒率が期待できる前立腺がん、肺がん、子宮頸がん、頭頚部がん、食道がん（いずれも早期のがんのみ）の治療症例が増加しています。

リニアック（一般照射治療）

直線加速器（リニアック）を用いて、がんの形状に合わせて放射線の照射口を調整し、病巣に多方面から放射線を照射する

リニアック（ＳＢＲＴ：体幹部定位照射治療）

ピンポイント照射と呼ばれ、特殊な患者固定具を使ってがん病巣の位置を正確に固定し、Ⅹ線がマルチリーフコリメーター（櫛の歯の様な構造を持ち、自由に形状を変えることが出来る絞りに相当する）を通過することで、腫瘍の形状に一致した照射野で多方面から放射線を照射する

リニアック（ＩＭＲＴ：強度変調放射線治療）

マルチリーフコリメーターの形状をＣＰ制御で常に変化させながら放射線を照射する

出典：地方独立行政法人大阪府立病院機構

陽子線（水素線）

陽子線治療は放射線療法のひとつです。Ⅹ線やガンマー線と言った光子線を使用しますが、陽子線治療は水素の原子核（陽子）を加速してエネルギーを高めて出来る陽子線を使用します。

特徴

陽子線治療は陽子線が持つ物理的特性によって、がん病巣のみをピンポイントで照射（ブラックピーク＝設定した深さに到達した時に最大エネルギーを出して停止し、奥まで突き抜けない）するため、治療効果が高く、体への負担や副作用が軽いと言う特徴があります。

重粒子線（炭素イオン線）

重粒子線治療は放射線治療のひとつです。従来放射線（Ⅹ線、Γ線）では適用が難しい放射線抵抗性がんなどに威力を発揮。現在、使われている重粒子線は炭素１２の原子核をビームとして治療します。

特徴

(1)当てたいところだけに放射線を当てる事が出来る＝高い線量集中性、副作用軽減、安全性向上
(2)当たった細胞を確実に殺す事が出来る＝高い生物効果
(3)この特徴は重粒子線だけが持つ物理特性であり、その特性から大幅な短期治療を実現
(4)外来通院が可能、痛みが無く副作用が少ない＝低侵襲、臓器温存可
(5)手術不適応者やX線が効きにくいがん、高齢者や体力弱者にも治療が可能

この治療法は１９９４年、国立研究開発法人・量子科学技術研究開発機構・放射線医学総合研究所（当時：独立行政法人・放射線医学総合研究所）が世界に先駆けて臨床研究を開始し、その後、商用機として稼働中です。

BNCT（ホウ素中性子捕捉療法）

BNCTは従来のがん治療とは違い、腫瘍（細胞）への選択的な照射が出来る異次元のがん選択的放射線療法による治療です。

仕組み

1.がん細胞のみに集積するホウ素薬剤を投与する
2.ＦＢＰＡを用いた専用ＰＥＴ検査で事前に治療の適応判断が可能である
3.調整したエネルギー中性子を患部に照射する
4.発生したα線とリチウム粒子ががん細胞を破壊する
5.飛距離は細胞1個分（≒１０ミクロン）のため、細胞単位で治療が可能である

特徴

1.難治性がんの新しい治療法
　浸潤がん、多発病変、再発がん、放射線抵抗性がん、手術不適応症例、放射線治療不適応症例
2.体への負担が少なく、ＱＯＬの高い治療法である
3.細胞単位をピンポイントで行う治療法
　通常放射線の3倍の威力を持つα線とリチウム粒子が、がん細胞のみのＤＮＡ螺旋を破壊する
4.照射は1回、３０分程度で完了・・・・・・・・患者負担の大幅軽減

つくばモデルi-ＢＮＣＴのオンリーワン技術

(1)開発コンセプト＝病院設置型、安全、安定、簡便に実施できるBNCT
(2)装置の放射化が少なく（先行他社比１/１０，０００以下）、患者と医療従事者の被ばくが大幅軽減
(3)これにより、治療終了直後や、緊急時にもスタッフが患者にアクセスして処置が出来る
(4)病院内でも一般の医療スタッフが装置のメンテナンスなどを行う事が出来る
(5)装置の放射化が少ないため、装置の廃棄時のコストを大幅に削減することが出来る
(6)ビーム強度が強いため、治療を３０分以内で完了出来る＝患者の負担軽減、治療精度も向上

出典：筑波大学付属病院陽子線医学利用研究センターＢＮＣＴ研究部門

引用先：地方独立行政法人大阪府立病院機構
国立大学法人筑波大学陽子線治療センター、同中性子捕捉療法研究開発室

外部リンク：国立大学法人筑波大学陽子線治療センター、同中性子捕捉療法研究開発室